「健康」をテーマにした県医師会報(2003年3月号)に寄稿したものです。


健康と不健康

 わたしの標準体重は62kgあたりで、それを懸命に維持しようとしているのですが、気を抜くとあっという間に2、3kg増えます。するととたんに身体が重く感じられ、出てくる汗も脂汗のような感じになり、いわゆるQOL(生活の質)が損なわれるわけです。 
 そうした事態を避けるためにやっているのがトライアスロン。水泳、自転車、ランニングの三つの競技を一人で行うもので、かれこれ二十年近く続けています。

 最初の頃は成績や技術の向上も動機付けとして北は北海道から南は沖縄、果ては海外遠征まで、いろんな大会に出ていましたが、年を重ねるにつれ成績は上がるどころか、現状維持さえ困難になり、また技術も頭打ち。ということで、ここ五,六年は宮古島大会(沖縄)、皆生大会(鳥取)などのロングタイプ(水泳3km、自転車150kmから180km、ランニング42.195km)を中心にのんびりと参加しています。

 これが健康につながるのだ、などという意識などほとんど持ち合わせていません。それどころかこの競技、健康にいいのかどうか、自分でも分からないところがあります。とくにロングの場合は皮膚は紫外線でビシビシやられるは、腰や膝に負担がかかりすぎるは、筋肉消耗はひどいはで、むしろ身体に悪いことが多いような気もします。

 競技の歴史は浅く、日本でも始まって二十年そこら。まだ長期データは見あたらないようですが、実際ロング競技者の健康が今後どうなっていくのか興味があるところです。
 とはいえ体力という点では、大いに貢献してくれています。練習は、三種目しなくてはならないため飽きず、関節や筋肉の負担が分散され長続きします。そういうわけで、おそらく同年代の体力としては上々だろうと自負しています。

 では、わたしの健康状態は一体どうなのかというと、健康が体力だけでいい表されるなら良好なのですが、残念ながらそうではないようでして。
 二十代のときから近視による飛蚊症があり、四十才を過ぎると調節障害も加わり本の字を追うのがつらくなっています。ちょっと集中力をなくすと、視野にゴミみたいな像が漂い始めます。いつの頃からか、仕方ないこととあきらめて書物に向き合っていますが、誠にわずらわしいものです。それに加え鼻炎や坐骨神経痛やら、最近身体のいろんなところにガタが出始めています。

 おかげで患者さんの訴えられるつらさが、この年になってようやく分かるようになってきました。いままでは、軽度の慢性症状の患者さんには自分の飛蚊症の話をして、「病気とケンカしないやり方もあるんですよ」と説くこともあったのですが、患者さんの訴える痛み、しびれ、だるさに実感が伴うこのごろは、心のなかで「一緒にがんばりましょう」とエールも送っています。
 きっとわたしのような凡庸な医療者は、適度に健康で、適度に不健康ではないといけないということなのでしょう。